第一話 『大群』
 「お前は選ばれた三人の中の一人だ」

 何て唐突に言われると正直困る話だが、どうやらここは別世界らしい。

 何でこんなことになってるかって?それは普通の…いや、凄く普通の日常生活を
送っている真っ只中で事件が起きたのだ。





 確か、事件の起こった頃は冬の二月
ダラけ癖が付いているオレは寒くて冬が嫌いだったのだが、暖かい冬
つまり、暖冬ということで、今年の冬は近年以上にダラけているわけだ。

 いや、オレのダラけ癖なんてどうでもいい。

 灰色、ずばり鼠色であって、大きく、お洒落な家の一室というか、マンションの一室のベッドの上で
オレは寝ている…わけではなく、現在はピンチに陥ってる真っ最中である。




「……」
 ガサガサ

「………」
 ザワザワ

 誰かが見ている。その感覚だけは自然と分かるのが不思議だが、コレだけは譲れないってぐらい
何者かはがオレのことを見ている。

 その正体を知るには時間はかからなかった。なぜって?『アイツ』らが…
シャー芯より細い糸を使って縄張りを広げて獲物を待つ『ソイツ』らが
まるで影から這い出て来るかのように部屋の片隅から沸いて出てきて群れをなして猪の突進のような勢いで
ベッドに集まってきている真っ最中だからさ。っていうのものあるが、こんなの日常茶飯事だからだ。
何て言ってる暇はない。

 話を戻そう。オレは現在、ピンチに陥ってる真っ最中であり、
ふわり、ふわりと青い海に浮かんでいるかのような雲ではなく、どこの家でも
部屋の片隅で目を光らせていそうな虫…ではない蜘蛛の行列がズバリ、オレのベッドに向かって
突撃してきているとのことである。

「結構、暇あったな……」

 数える暇は無いが、蜘蛛は二十匹前後が群れでオレを狙ってきているようだ。

「…ッ!」

「オレのそばに近寄るなァーーーーッ!!」

 人間の言葉が分かるわけもなく、人間の言葉が分かっているとしても
喋れない蜘蛛に言い返せるはずもない。オレの声は
逆転満塁ホームランのチャンスで三振してしまうバッターのように空しく部屋の中で響いただけだった。

 無駄に解説が長かったのか、蜘蛛の八匹ほどがベッドの上によじ登り終わっていた。

おいおい、コレは洒落にならねぇ。

 いつの間にか八匹どころではなく、全ての蜘蛛が海で泳いでるかのように
オレのベッドの上で動き回りだしていた。

「オレのベッドから降りるんじゃねー!オレは下、貴様らは上だッ!!」

 颯爽とベッドの上から飛び降り、ベッドの下に隠されているエロ本を引っ張り出すのではなく、
エアーガンを引っ張りだした。

「リボルバー二丁持ってきといて!」

オレが寝ようとしているとき、蜘蛛より先に覗いていた弟にそう言うと

後ろのドアから覗いていた弟がドアから離れて行く音が聞こえた。


 今までのは勿論、独り言ではなく、弟が聞いていてくれてると知っていてのことだ。
無論、寂しいということもあったわけだが。

 正直、オレは蜘蛛が苦手で弟にオレの蜘蛛から怖がる大失態を見せたくないわけであり、
加勢してもらっても足を引っ張る自信満々だったわけだ。

 一先ず、ベッドから一番離れた場所に移動すると、必然的にドアの前に構えることとなる。

決意を胸に、久々に握ったエアーガンは重く感じ、腕が鈍った予感もあったが、心配は無かった。

一匹!

 スライドを引き、引き金を引くと、部屋の片隅で様子を見ていた蜘蛛を一匹潰した。
掃除係は無言で見ていた弟だ。

二匹、三匹!

 今度はベッドの上で重なっていた二匹の蜘蛛を同時に潰した。
このベッドで寝るのは勿論弟だ。

四匹!

 ベッドの近くの壁に登り始めていた蜘蛛を潰した。

「リボルバー投げて」

 ドアから覗いている弟に命令を下した。今使っているデザートイーグル一丁だけでは効率が悪い。

「了解!」
 そう叫び、ドアを勢いよく開ける弟。そうすると必然的にオレはドアに押される……。

「な…何をやっているんだ、お前ェーーーッ?!」
オレは勢いよくドアに押され、その勢いでベッドの下に飛び降りていた蜘蛛7匹ほどをグッチャリ
と潰してしまっていた。呆然と倒れこんでいると
 

「格好良く頼むよ、兄貴」
と軽く吹き出しそうな感じで喋りながら頭にリボルバーを投げてきた。あとで泣かすぞ?

 

 それからは意外と早く決着がついた。オレは生まれ付いてからの才能の一つに
狙った物は届かない物以外なら何でも狙い落とす才能があるのだ。
女の子は届かないので狙い落とせないのが欠点だが。
そんなことも考えながら撃鉄を引き上げ、引き金を引く。

二十、二十一、二十二、二十三……、二十四ッ!!

 オレの才能+連射+フライングプレスによって蜘蛛たちは瞬く間に潰れてしまった
蜘蛛たちを目の前に、弟が部屋に入ってきた。

 「流石だね、兄貴の腕前にはお手上げだよ。」
と蜘蛛の残骸を見ないように天上を見え上げている。 

「処理もお前だし、このベッドで寝るのもお前だ、無論、BB弾も全部集めてもらおうか」
とニヤリとしながらオレが言う。

 「あぁ、掃除ぐらいならやるよ、んじゃ、掃除道具持ってくるわ」
と何かから逃げるかのようにセカセカとドアから離れていった。

 

蜘蛛が群れを作ってオレのみを襲うようになってからもう何年たつだろうか、
気づいた時には蜘蛛から何回も襲われ、気づいた時にはスデに蜘蛛が嫌いになっていて、
気づいた時には弟だけ蜘蛛に襲われない。

 まぁ、オレの父が蜘蛛を量産している犯人だっていうのは分かっている。

 父が言うには「蜘蛛は家の中にいる邪魔な虫を食べてくれているんだ。
そんなありがたい蜘蛛を殺すなんておかしいだろ」

 と言うことらしく、外で見かけた手ごろな虫は部屋に持ち帰り、犬に餌をやるかのように
蜘蛛に食べさせ、手懐け、量産し、オレを襲うようにしているらしい。

 理由は「蜘蛛が嫌い?アホか!蜘蛛はありがたいんだぞ!邪魔な虫を食ってくれるんだ。
例えばゴキブリだな。あの触角なんて見ているだけで気色悪い。他には蛾だな、
ゴキブリほどではないが、正直邪魔だ。」

 とのことで、オレは蜘蛛のありがたさを知らないから襲わせているらしいわけだ。

 実は弟も蜘蛛が嫌いなのだが、蜘蛛に襲われない。理由は
父と母、そしてオレと血が繋がっていなく、そんな子供に嫌がらせはするもんじゃないだろう。
という父の判断で弟は『嫌がらせ』を受けないで済んでいるらしい。

 それにしても、今までは一週間に一回は蜘蛛が軍隊のように押し寄せていたのだが、
ここ数ヶ月間は蜘蛛が押し寄せることなんてなかった。だから今回は腕が落ちてないか心配
してたもんだが、ちっとも衰えていなかったらしい。それにしても、また一週間に一回襲われるのだろうか?
とか内心ガッカリしていることもある。

 いや、それよりシャワーを浴びた後にフライングプレスでグッチャグチャな洋服を洗わないとな。

 と、考えていた時のことだ。

『パリィーーン』と、ベッドのそばにある窓ガラスの割れる音が部屋に響いた。

 ガラスの破片は不思議とキラキラ輝きながら、ベッドの上に飛び散っていた。(掃除は弟)

 そして、ガラスを割った犯人は……。

「よくも、私の子供達を殺したナァァァ」

 「…?!」
驚き、振り返った先に見たものは
 
……。

 前言撤回、という奴なのだろう。蜘蛛は喋れるようです。
どうやら、その喋っている蜘蛛はオレが殺した蜘蛛の親らしく、ようするに
さっきの蜘蛛達のリーダー格とも言えることだろう。

 何たってコイツの大きさは人間八人分ほどの大きさがあるからなぁ。
何て悠長な暇は微塵も無い。動かなきゃ殺されるゥゥゥ!

 「私は子供達とは違って人の迷惑になろう何て考えてないんだ。屋上で待っているから
準備が整ったら来る事だな……。」

 という事らしく、そこそこ迷惑になるのが嫌いなリーダーらしい。部屋の窓割るのはどうかと思うが……
一先ず、オレはシャワーを浴び始めたのが別世界に送られる1時間ぐらい前の話である。