第二話 『親玉』
シャワーを浴び終わったオレはどのような行動を取ろうか考えていた。
相手は人八人分ほどの馬鹿でかい蜘蛛。っていうか化け物であり、
正直退治して処分するにはあの武器を使うしかないだろう。
そう思い立ったオレはリビングに移動し、
『蜘蛛殺し』という名の剣の前に突っ立っていた。
「名前からしてコレを使うしかないだろうなぁ」
この剣は父がいつの間にかどこからか持ってきて、尚且つ自然に
リビングに飾れるほどの不思議な剣であるが、そんなことどうだっていい。
蜘蛛好きの父が何故『蜘蛛殺し』等という『蜘蛛』を『殺す』ために作られた
かのような剣を持ってきたのかが不思議なのである。
見た目はそこらの剣とは違う。何故か?刃の付け根に『刀』と書いてある玉が
はめ込まれているからだ。
まぁ、化け物を待たせすぎて暴走する〜何てことがあったら面倒なんで
さっさと行こうと思い、剣を持ち上げようとしたとき
「……」
何だこの重さは?!
「グ…オォォォォォ!」
全身全霊の力を込めて剣を持ち上げようと試みるも
「ブヒー…ブヒィィー」
と見っとも無い結果が待っていたわけで
……どうするかなぁ。
「そうか!」
父の言葉が頭に思い浮かんできた
『腹が痛いだ?!痛いと思うから痛いんだろうが!痛くないと思えば痛くない!!』
という台詞だ。
軽い……この剣はとてつもなく軽い。それはもう、砲丸なんて目じゃないぐらい軽い。
いや、コレは紙切れ以上に軽いはずだ。
そう心の中で自分を説得しながら剣を握り、神に頼むようにもう一度
神様、お願いします。この剣は紙切れ以上に軽い、赤ん坊にだって持てるぐらい
軽い剣ですよね?!そう、オレだったら百メートル先に投げ飛ばせるほど軽い剣ですよ!いや、
一キロ先に投げれるほど軽い剣だ!
そう心の中に住んでいる神にぶつぶつ呟きながら全身全霊を込めてもう一度剣を持ち上げると
流石に予想だにしない出来事がおこったのだ。
「剣が……消えた?」
持ち上げた。と思っていたはずの剣が手元には無く、いつの間にか
「……。何で空中に浮いてるの?」
ってことになっていた。
剣が浮かび上がっていく様は言いようの無いほど非現実的であって、
例えようの無いことになっていた。
しばらくして気が付き、剣を握ってみた物の……。
この剣はいったい何なのだろうか。とその非現実的な剣を見ていた。
重さは感じない。さっきの重さも嘘のようだ。
……まさか、神様は実在していて、オレの思いが伝わったのだろうか。
「神様、見ていますか!ありがとうございます。今から化け物を退治してきます!」
と言いながら剣を高々と振り上げる。天上が軽く切れたことは気にしなかったが
「兄貴、頭大丈夫か?刃物なんだから慎重に扱えよ」
という弟の言葉は心に残るものとなった。
「見てたのか」
と言いながら、今までの行動も見られてたのか。と思うと冷や汗がドッと噴き出てくるのが分かった。
「うん、何ていうか、『名前からしてコレ使うしかなかろうなぁ』って所から見てたんだ。ごめん」
素直に謝られると何とも言い返せないが……恥ずかしいという感情だけが確実に心の中に充満していた。
「で、化け物って何?」
と、弟が興味津々に聞いてくる。
「蜘蛛」
恥ずかしさが少し怒りに変わり、ブスッと答えると
「蜘蛛か。なら一人で頑張ってね」
「蜘蛛じゃなかったら一緒に戦ってくれたのか?」
何て聞いてみると
「オレは自殺的な行動はしないんだ」
躊躇無く言いやがるな……
「まぁ、来ないなら来ないでいいんだ。オレが死んだら火葬で頼むな」
「骨が残ってたらね」
ズバッと言いやがる……
そんなのんびりとした会話を終え、屋上に向かう途中で思い出した。
この剣って何で軽くなったんだ?と。
今は手から持っているから大丈夫だが、離せばふわふわと浮いていってしまう。
屋上で手放したら武器がなくなる。ということだ。
第一、何であんなに重かったんだ?隠しスイッチを押して
軽くなったとかじゃあ無いだろうな。
等と下らない事を考えながら屋上に向かう。
『バン!』
勢いよくドアを開ける。ドアの前に蜘蛛がいたとして、突き飛ばせていたら剣で一突き。
何て考えは微塵もない。
屋上はヒョウヒョウと風が吹き抜ける。正直寒い
「思ったより早かったナ」
と化け物の言葉が聞こえるが……。姿が見えない
「どこだ?!」
目が回るほど周りを見渡すものの、影すら見当たらない……。
すると
『ズガガガガ』
何てとてつもないほど大きい音が壁から聞こえてきたと思ったら
『ビュッ』と壁から飛んで空中から降ってきた。
『ダン!』
……。
穴空いてますよ奥さん。僕はこんな化け物と勝負するの?
『屋上で待っている』何て言われたときはいつもどおり蜘蛛退治のつもりだったわけだが、
この蜘蛛の強さを知り、今までの余裕は微塵も無くなっていた。
何しろ、こいつは部屋で見たとき以上にデカく見えるし、蜘蛛といったら糸を吐くわけだ、そして
捕まえた獲物はボリボリとスティック系のお菓子を食べるかのように美味しく頂くってことだよな……。
何て後悔していると
「今更私の子供を殺した事を後悔してももう遅イ!」
そう言い放ち、突進してくる。
「クッ」
ギリギリで避けた……と思ったそのとき
『ビッ』と蜘蛛の糸を足元に飛ばしてきた。
その糸もギリギリでジャンプして避けたものの……。
相手のペースのままでどうしようもない。
「断言させてもらおウ。お前は骨も残らず死ヌ」
火葬すらさせてもらえないのか……。と思いながらも敵の予想以上の強さに
ワクワクしていた。
「ウォォー!」
剣を腹辺りに持ちかまえ、馬鹿みたいに突進していく。
「遅イ」
蜘蛛は軽く三mは飛んでいるだろう。そして、着地。
『ズガガガガガガァ……』
と馬鹿でかい音を立てる。勿論屋上の床は穴だらけだ。
「お前は人間の邪魔にならないって言ってなかったか?!」
「コレはお前が悪い。お前が私を怒らせるから悪いのダァァァーッ!容赦せん!」
コイツ、ヤバいィィィィ
蜘蛛は凄い速さでカニ歩きをし、距離を詰めてくる。
「あれ?コレって剣じゃ勝てないんじゃ……。蜘蛛殺しじゃあ意味無いんじゃ……」
としか言えるはずも無い。……そうか!
「逃げるんだよォーーーッ!!」
逃げるが勝ち。三十六計逃げるに如かず。ジョースター家の伝統的な戦いの発想法。
色々な言葉があるが、一先ず『逃げる!』
「ブジュアァァァァァー!!」
蜘蛛は突進して追ってくる。
「負けるかァァァーッ!!」
オレは横に曲がりながら逃げる。
一人と一匹の様々な走り方の徒競走は以外にも早く決着がついた。
何故って?蜘蛛が飛んだからさ!
「ジャンプするなとは言わんがオレの前で飛ぶな三下ァッ!」
空中に飛ぶ蜘蛛を狙って剣を思いっきり吹き飛ばす!
「ドララァーーッ!!」
投げ方が上手かったのか、さっきまでふわふわ浮いていた剣は
風を貫くかのような勢いと蜘蛛の振ってくる勢いとで
『ドスッ』
と鈍い音と共に突き刺さり、蜘蛛独特の色をした血が腹から噴き出ている。
が
予想以上に元気で
「ふざけるナァ!」
と叫びながら蜘蛛は転がりまわり、その衝撃で剣が腹から抜ける。
蜘蛛はゴロゴロと屋上から落ちて域
『ドカァッ』という音と一緒に駐車場に落ちたようだ
しかし、こっちもトンでもない事態になっていた。それは
剣がシャボン玉よろしく浮いていっているのだ。ココから走っても間に合わないかも知れない……。が、
やるだけやらないとね。父の剣だし。
跳び箱を飛ぶかのように勢いよく走り、ジャンプ!が、
「あと三センチで届かないィィィー」
ヤバい……。届け、届けよ!ココで届かなかったら意味が無いんだ!
と思ったその時、緑色の風がオレを包み込み、上に持ち上げた。
無事に剣を掴み、着地する。
風もどうやらオレが操作できるようだと知ったわけだが
「少しずつ現実離れしていってる気がするな……」
と呟いた瞬間
『ドガァーン……』
と駐車場から音がする。
「何だ?」
勝利した余韻と恐怖の余韻が吹き飛ぶほどの
音が聞こえ、駐車場を見ると蜘蛛は車の上に落ち、
車が爆発していたようだ。
しかし
「お前を殺して私も死ヌッ!」
腹から血を吹き出しながらも
心中を望みながら壁を凄い勢いで登ってきていた。
オレの行動は決まっていた。
「焦げ臭いんだよ、お前ェーーッ!」
と言いながら剣を振りかぶる動作をし、
「貫け!」
という掛け声と同時に投げる瞬間に
剣が槍に変わっていたが、気にする暇もない。
「シューティングスター!」
と言い放ちながら槍に風で勢いをつけながら投げ放つ。
「槍がくることを許可しなイィィィ」
と制止する蜘蛛の言葉も空しく、長い槍は蜘蛛を貫通して
火炎の中に『ガッ』と突き刺さった。
「地球の……人間如き…に……」
と悪役の捨て台詞を残し、蜘蛛は槍の横に落ち、やっとで決着が付いた。と思った
その時だった。
辺り一面、オレが見る限り、周りは何も見えなくなり、ただ
静寂と暗闇、そして自分しか存在しない世界と変わっていた
が
「おわッ?!」
と、何が起こったか分からないが
オレがどこかに落ちている感覚だけはハッキリとしていた。