第三話 『始まり』
漆黒で覆う暗闇。それだけでも怖いのに、
見えない穴に急降下する。何だこれは?新しいアトラクションか?
等と恐らく頭から下に落ちている真っ最中でも悠長に考えているわけだが……。
コレって死ぬのか?
何て考えていると、ようやく穴にも終わりが来たようだ。
床……があるであろう場所にぶつかり掛けた瞬間に頭と足が反転し、
無事に着地したのである。無論、オレの力ではない。
「……?何か音が……ァッ?!」
『ガッ!』と頭の横を槍……『蜘蛛殺し』が通り抜け、足元に突き刺さってきた。
「何が起こってるんだ?」
当然だが、混乱するオレの前に
「……ようこそ」
と目の前に白髪、そして長く白いひげを伸ばしている、どこか貫禄のある爺さんが現れた。
「……ここは別の世界。お主が住んでおった地球とは別の場所にある世界じゃ」
と、ゲームのあらすじかのような事を喋りだした。正直理解不能
「別の世界って?異次元とか?別の星とか?別の空間?地獄?天国?」
当たり前のことを訊ねてみるも
「地獄と天国は違うが、別の世界、異次元、別の星。どれと思っても構わん」
構わんか……。
「それじゃあ、別の世界で。爺さんが最初に言ったしね」
と言い、
「で、何でオレはこの世界に来ちゃったわけ?地球に戻れるの?戻れないの?」
「お主は……」
と、一旦深呼吸をして
「お主は選ばれた三人の中の一人じゃ」
とのことであるが
「選ばれたって?」
貫禄があると思えたが、色々と説明してもらわないと
何も分からない。少しボケた爺さんなのかもしれない。
「お主のさっきの戦い、見ておったが」
「見てたの……」
と呟き、助けてくれてもいいじゃないか、と。
「あの蜘蛛をお主が倒すとな、この世界にワープするように出来ていたのじゃ」
何で?
「それは、さっき言った、選ばれた三人の中の一人っていうのも関係してくるわけじゃ」
「さっき、お主は確かに風を操作した。そうじゃな?」
と訊ねられる。本当に見てたのか、ジジイ
「緑の風のことなら、多分そう」
少し怪しい爺さんかもしれないなぁ。ストーカー?
「この世界ではな、研究をしておってここ一昨年から来年までの間に
全属性を使える、選ばれた三人が現れると結果が出たのじゃ」
「ゼンゾクセイ……?」
どうやら、この爺さんは説明不足だということすら気づいてない様子だ。
「ゼンゾクセイとは?何なの、爺さん。説明がさっきから足りないんだが」
と、少し『説明が足りない』部分を強調していうと
「おぉ、足りなかったか、スマンスマン」
……。この爺さんの貫禄を感じなくなってきた……。
「全属性というのはな、世の中には火や水などがあるじゃろう?」
「ありますね」
「他には風や雷、様々あるが、それを全部使えるものが『選ばれた人』なんじゃ」
「エラバレタヒト……選ばれちゃったわけですか」
ほぉ、オレって強いわけか……。炎とかも出せちゃうのか?
「そういうことじゃな。しかしじゃ」
……あれ?今度は悪い報せ?
「お主の住んでいた星、地球には属性を操る事ができたのは極少数。一人から五人ぐらいじゃが」
やっぱり凄いのか……
「地球以外の人は全員が属性を操れる」
「はぁ?!」
驚く。凄い
「いや、待て。全員が属性を操れるが、多くて二つ。基本的には一つしか使えんのじゃ」
ってことらしい。
「で、選ばれちゃったわけだが、何をしないといけないんだ?」
死闘を繰り広げてもらうぞい。何て言われたら逃げるからな
「……逃げれんよ」
と、暗い声を出す老人。……選ばれた三人…何かの計画の邪魔になるとしたら……。
ここで消される可能性もある。ということをオレは数秒で理解した。
が
「ここはのぉ、ワシが作った空間でな、ワシの思うとおりに動くわけじゃな」
「つまり、出口はワシしか作れんし、お主をココで殺すことだってできる。理解できたか?」
「この空間は周りの見えない暗闇なのに、ワシとお主の姿はハッキリ見えるのも、ワシの力じゃ」
……。空間を操る?魔法使いか
「そう。ワシは地球で言う魔法使いに部類される者じゃ。ちなみに、ワシの空間内にいるとお主の考えは筒抜けじゃ」
ダボァ?!
「フフ……そう慌てるでない。確かに貫禄がありそうで無いジジイじゃが、お主は殺さぬよ」
だそうだ。
「でじゃ、お主にここに来てもらった理由は……」
「後々伝えるとしよう」
と言った瞬間に目の前に二つの扉が現れた。
「左の扉は後で来る別の人物が入る予定じゃ。お主には右の扉に入ってもらいたい」
そこで何をするのですか?
「その中にいる人物にお主を鍛え上げてもらうのじゃ」
何で?
「お主は今、風の力しか使えんわけじゃ。まぁ、他の属性を身に着ける方法はお主の師になる人物から聞けばよかろう」
なるほどね……。
「それでは、お主が扉に入ったら空間を解除する」
……。爺さん、ありがとうね!また会おう
「そう考えながら少年は扉を潜り抜けたのじゃッた」
黙れ……。
そう思いながら扉の中に入ると……。
「おう、遅かったじゃねぇか!」
凄く小さい部屋で、ようするに、小さい子供の部屋ぐらい大きさだ。
「おい、無視するんじゃねぇぞ!」
いかん、帰りたい……。オレの知らない場所で何が起こっているというのだ……。
そう思い、後ろのドアを開けなおすと
「いらっしゃいませ、ご主人様〜」
おいおい、この世界にもメイド喫茶はあるのか?
……。扉にまた戻ると
「おい、何してるんだ?爺さんに話は聞いたんだよな?」
と、ニコやかな顔でアイスコーヒーを飲んでいる親父と再会することになったのだ。
「何で親父がここにいるんだ?」
と疑問をぶつけると
「オレは元々こっちの世界の人間でな。勿論、お前はこの世界で産まれた」
話しが付いていけんわけだが
「今北産業」
と、某巨大掲示板の台詞を使うと
「『選ばれた人』は勿論、あることをするために選ばれたわけだが、お前がこの世界で産まれた時点で
『選ばれた人』って気づいたわけだ。あることをさせないためにお前を殺す人間が現れるから
お前を隠すために大人になるまで地球で暮らしてたわけだ。まぁ、他にも理由があるわけだがな」
「三行でまとめきれたのか、凄いな、親父」
勿論、褒めるしかないだろう。『今北産業』を理解できた時点で凄いんだが。
「ネラーだからな」
という言葉はオレの心には届いていない。
赤ん坊から大人になれば確かに面影とかよく分からないかもしれないな……。近くにいない限り気づかないだろう。
それより
「ていうか、さっきの爺さんは地球の一人から五人が属性を持って産まれてくるって言ってたんだけど……」
「オレはコッチの世界の人間だってことは?」
若干分かりかけてきたが、念のために聞くと
「分かってるんだろ?お前の弟が選ばれた三人の中の一人だっつーの!」
と言ったあとガハハハハと笑い出す。笑っていいともを見ている健康な爺さんのような親父だな。と改める
「最後に一つ、聞きたいんだけど、いい?」
本当に最後になるとは思ってもいないが
「何だ?」
とニヤニヤしながらこっちを見る親父に
「何で『蜘蛛殺し』何て名前の武器を持ってたの?」
と言いながら槍を前に出す。
「それはな、言っちゃうと怒りそうだが、やっぱり言っちゃう」
と言ったあとガハハハハと笑い出す。
「あ……、あぁ、言っちゃって」
少しは真面目に喋らないかなー
「地球に行く前に買ったんだ。勿論、ちゃんとした理由もある。
本当の名前は『蜘蛛殺し』じゃあないんだ。俺も名前は知らんがな、その剣……じゃない?」
と言ったあとオレの槍を奪い取り
「使いこなすとはね〜。お父さん、ビビッちゃう」
と言ったあとにガハハハハハと笑い出す。長生きするな
「まぁ、『蜘蛛殺し』はな、『選ばれた三人』の中の一人、つまりお前にしか
使えない代物でなぁ。その『蜘蛛殺し』を体に触れてる状態ならどんな物質にでも変化できるんだ」
と真面目な口調で喋り
「だが、その『槍』と書いてある玉が壊れたら物質を変化させれなくなるけどな」
と言ったあとにガハハハハと笑い出す。コーヒーで酔ったかな
「『蜘蛛殺し』の話に戻るが……。お前がもし蜘蛛と仲良くなったら
さっきの馬鹿デカい蜘蛛を殺そう何て思わなくなるだろ?だから、お前を蜘蛛嫌いにさせ、
化け物蜘蛛を殺すように仕向けたわけだ。ちなみに、お前を襲わせていた蜘蛛はな」
と息を吸い
「オレは蜘蛛を触る事すら嫌だからな、母さんに集めてもらってお前の部屋に送っていたんだ。
そして、お前に排除してもらう。蜘蛛に対しても強くなる。一石二鳥!あ、『蜘蛛殺し』って名前を付けた理由
は、蜘蛛を退治するなら嫌でも使っちゃう名前だろ」
と言ったあとにガハハハハと笑い出す。
お前も蜘蛛嫌いだったのか
「まぁ、話は大体わかったけどさぁ、この『蜘蛛殺し』ってマーカーで書かれてる部分
どうにかならないのかな?」
そう。オレがこの武器を『蜘蛛殺し』と思っていたのは、手で握る部分に『蜘蛛殺し』とマーカーで
書いたあとが付いていたからだ。
「それか。貸してみろ」
と父に手渡すと
「はい、消えた」
と、何事も無かったかのようにすぐに渡してきた
「き、消えてるッ?!」
と驚くはずもない。風も操れるんだぜ?マーカーぐらい消せるよね。
「本題に入りたいところだが、ちょいと仕事場に戻らないといけないんでね」
と言ったあとに
「オレの仕事場の目印は『マルタ』だから、来いよ。ついでに街も拝見しとけ」
とのことだが
「どこから出るわけ?後ろのドアは……」
「さっきのメイド喫茶は嫌でもお前に戻ってこさせるように爺さんが作った空間だからな。
次でたらちゃんとした街になっているだろうよ」
そういうことなら
ガチャリ。とドアを開けるとそこには
普通の、地球とそう変わらない街並みがそこにあった。
後ろを振り返ると、ドアが二つあり、右の扉から声が聞こえた。
「お前は選ばれた三人の中の一人だ」
扉の奥にいる弟は何を考えているだろうか。
『お前は選ばれた三人の中の一人だ』
何て唐突に言われると正直困る話だが、どうやら本当に別の世界らしい。
オレはそう考えながら『マルタ』を探すのであった。