第六話 『ハイレベルジャンケン』
「ジャン、ケン!!……」
爺さんが勢いよく掛け声をあげる

なにを出す……。グーを……?いや、チョキか?

パーなら勝てるかもしれない……。どれを出せばいいんだ?!

いかん、頭をフル活動させても分からん!こうなったら!!

「ちょ、ちょっと待った!!」
情け無い話だ……。

「なんじゃ?」
勝ててたのに……。という表情でこちらを見ている爺さんはどこか苛立ちを感じているようだ。

言い訳を考えないと……。

「あの、その〜」

「あっち向いてホイ!ってのは……、やります?」
ナイスアイデア、オレ!

「ん〜……、入れんでよかろう」
やれやれ、そのことか。という感じに眉毛を動かす爺さん。苛立たせてスマナイ

「それじゃあ、オレはパーを出して貴方に勝ちますよ」
ジャンケンは運じゃあない、心理戦だ。運も使うが、自分の実力も使う男の戦いだ

「ふむ……。よかろう」
爺さんはオレの言葉が嬉しかったのか微笑んで

「どうやら、ワシも本気を出せそうじゃ……」
といい、ヨボヨボな体に異様なほど筋肉が溢れ、筋肉質に爺さんの体が変わる

この爺さん……。

『今までジャンケンに人生を賭けてきたかのような男だ!!』

「勝負じゃ!!」

「受けてたつ!!」
心から叫ぶ



「最初はグー……ですよね?」

先だし、遅だし、オレは気にしますよ?

「よかろう!最初はグーじゃな!!」

「ジャンケンポン、ですか?ジャンケンポイですか?」

「ジャンケンポンじゃろう!!」

「それは、譲れねぇな、爺さん。掛け声はジャンケンポイにしていただこう!」
男には譲れないものが、確かにある!コレばっかしは譲れない!!

「それなら……。最初は掛け声を賭けてジャンケンじゃ!!ジャンケンホイで出し合う!」

「OKだ、爺さん!」

「最初はグー……」
腰を捻り、その勢いで

「ジャン、ケン……ホイ!!」

オレはグーで相手はチョキ……。

この勝負、オレの勝ちのようだ。

……、あれ?コレって……。

「掛け声とか気にしなければ……もう試験終わってた、とかですか?」
軽くうなだれる

「そうじゃ!まぁ、自業自得じゃ!!」
筋肉とともにキャラが変わったな、爺さん


目を閉じ、深呼吸をする。

「うしっ、勝負だ、爺さん!!」

「最初はグー!」

「ジャン、ケン……ポイ!!」

グーとグー……アイコのようだ


「ふぅ……」

「最初はグー」

「ジャン、ケン……ポイ!!」

今度はチョキとチョキ



このようなアイコが36回続いた頃……。

「ゼハー、ゼハー……」

「ゲヒッゲヒッ」

二人とも気合を入れすぎていたのか、ジャンケンでバテていたが……。

「そうじゃ……た」

ん?爺さん、死ぬなよ?

「この試験で落ちたら、風の属性も使えなくなるらしいのぉ……」

……

え?

「ええ?脅し、ですよね?」

「それはどうかのぉ〜〜」
コイツ……

『できる!』

心理戦か?いや、脅しと分かっていても、コレはキツい……。

脅しじゃなくて、本当だったら?この爺さん、きわどい所を突いてきやがる。

「それじゃあ、ワシは次、パーを出すかのぉ」
パー?

「考えさせてくれ……」

負けたら、風も使えないわけか。

コレは……負けれないな、よぉく考えるんだ

相手は『パー』を出すと宣言しているってことは、オレに『チョキ』を出させたいわけだよな?

ってことは、相手は『グー』を出したいわけか?

『グー』を出したいなら、オレは『グー』か『パー』にすればいいわけだ。

コレなら、『パー』のほうが安全のような気もするし勝てる確立も高いな……。

コレは……

『パー』しかない!!

「よっしゃ、いくぞ、爺さん!!」

「勝負じゃ、小僧!!」


オレは……オレは、自分の運を乗り越える!!

「最初はグー!」

「ジャン、ケン……」

あれ?爺さん、指が動いてる……。グーじゃ、ない?!まさか、チョキか?!

「ポイ!!」

……

オレはギリギリでチョキを出し、爺さんもチョキを出していた。

この爺さん……。今まで何回も自分の運を乗り越えてきたようだな

ジャンケンで金を稼いできたのかもしれん

コレは、次は本気でいく!!

「次で最後だ!オレはグーで爺さんを倒す!!」

「来てみい、小童!!」
小童?

「最初はグー、」

「ジャン、ケン……!」

渾身の……、右ストレートだ……!!

「いっけェーーー!!」

『ドガッ』

次の瞬間、爺さんは宙に舞って床に倒れた。

何故か?

それは……。

オレが、爺さんを……

間違えて『殴った』からだ

「グフッ……」
かなり効いたみたいだ

「爺さん、ごめん!気合入れすぎちゃったんだ……。ごめん!死なないで!!」
心の奥から言葉が出ない

「大丈夫……じゃ。見事なグーじゃのう」

「あの時、ワシはフェイントかと思って、チョキを出したんじゃ……。お前さんの勝ちじゃ」

な……に??

オレ、勝ったのか?爺さんに?!試験、合格なのか?!

「よっしゃー!!!!」

「爺さん、ありがとうな!」

「あぁ……、いいんじゃ。マルタさんの所に行って報告してくるの……じゃ」


今にも爺さんが死にそうで、誰かに見られたらヤバいと思ったオレは

爺さんの言葉通りに親父に説明する。という言い訳を自分に聞かせて

その場を離れた。